春樹で語る日常
「トイレットペーパーが無くなるのよ」 妻はひどく落ち込んでいた。実際に近所のドラッグストアにはトイレットペーパーもティッシュペーパーも売っていなかった。「それはデマによって、一時的な買い占めが起こっただけだよ」「そんなことは分かっているけど…
「つまりキャンセルしたいってことかい?」 電話を通して聞こえるマスターの声に抑揚はなかった。手狭なカウンター越しにため息をついている様子が眼前にまざまざと浮かんだ。「僕としても残念なのですが、昨今の事情を考えると見送りたいと思っているんです…
妻は細い腕でレバーを引いた。勢いよく水が流れた。 「流れるじゃない」 何も言わない僕をよそに、妻は用事があると告げ、簡単な身支度を整えて外出していった。部屋には僕だけが残された。 僕は混乱していた。夜の海にちっぽけな浮きが漂うように、どうして…
「とにかく何も分からないということね」大家は電話越しに言った。空気がぴんと張りつめた。僕自身、誠意を持ってトイレが詰まった時の状況を伝えたつもりだった。春の嵐のように突如トイレが使えなくなったこと、24/365の業者を呼んだら筋肉質の若い青年が…
予感めいたものはなかった。突如自宅のトイレが詰まった。それは誰にも想像できなかっただろうし、僕自身そういう場面に遭遇するのも初めての出来事だった。 僕はGoogleで「トイレ 詰まり」と検索した。YouTubeにはたくさんのトイレ詰まりを解消する動画で溢…